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寄せられたコメント

「シロタ家の20世紀」に寄せていただいたコメントをご紹介します。

赤い花とシロタ家の生のつながり

原口 廣(元東京銀行勤務・ヨーロッパ滞在15年)

20世紀という時代を一家族の生と死で織り上げた見事なタペストリーと受取りました。 語部の二人の女性が紡ぎ出す構成は巧みで、物語と映像の組合せが時代と人の光と闇をくっきりと描き出して、体温を感じさせる作品になっていると感じました。テーマにこの一家を選んだことは20世紀の歴史の深い鉱脈を掘り当てたことと監督の烔眼に感服しました。

かつてパリに二度合わせて6年を暮した私には、冒頭アリーヌがマルシェで買物をして、花束を抱えて帰宅する場面から惹き込まれてしまいました。映像処理の見事さは全てにわたっていますが、一例を挙げれば、ノルマンディ上陸作戦の戦闘の後、野に散乱する兵器の像の後に表われる、甦った平和の時代の戦場跡に群生するコクリコの赤い花の対称が心に沁みました。

背景に流れるショパンのピアノ曲、唱われたパルチザンの歌にレオ・シロタとポーランドが浮かんで来ました。ポーランド隊で戦死したイゴールの面影も。(合唱歌を聞きながら映画「ルイズ その旅立ち」の弔の場面で唱われた「ワルシャワの労働歌」を思い出しました。)

ウクライナに生れた植物がその種子をヨーロッパ、日本、米国にまで運んで花を開かせたシロタ家という国際的な広がりをもつ一家。パリに活躍し、多くのアーチストとの華やかな関係を築き、やがてアウシュビッツに命を絶たれたピエールの悲惨。その敵ナチスドイツとの戦いに斃れ、死後、栄光と感謝につつまれて追憶されるイゴール。(マルシェで買った花束、ノルマンディの野のコクリコ、ティナの田舎家の門のバラ、いずれも赤い花がシロタ家の血=生の連がりを顕わしているように思えました。)

生と死、戦争と平和、兵器と花、栄光と悲惨、等々。有名、無名を問わず、20世紀を生きた全ての人間に関わるテーマが、映像の奥に重く秘められていることが感じられました。